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横浜地方裁判所 昭和63年(わ)2385号 判決

本店所在地

横浜市港北区新横浜二丁目五番一六号

有限会社木下工業所

(右代表取締役 李仁秀)

国籍

韓国

住所

横浜市鶴見区駒岡町三四〇番地の一

会社役員

木下忠こと

李仁秀

一九三一年一〇月二五日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官中屋利洋出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社有限会社木下工業所を罰金六〇〇〇万円に、被告人李仁秀を懲役一年八月に各処する。

被告人李仁秀に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社有限会社木下工業所は、横浜市港北区新横浜二丁目五番一六号に本店を置き(昭和六一年一月八日解散。同六二年六月六月一六日会社継続)自動車の板金塗装溶接業、不動産売買業等を目的とするもの、被告人李仁秀は、昭和五六年二月二〇日から同五八年九月九日までは同社の取締役、同五八年九月一〇日から同六一年一月八日までは同社の代表取締役として同社の業務全般を統括していたものであるが、被告人李は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産賃貸料収入や不動産売却収入、貸付金利息収入等の一部を除外して簿外損金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億六六八九万二六一九円、課税土地譲渡利益金額が五一七万一〇〇〇円であったにもかかわらず、昭和五八年七月二九日同市神奈川区栄町八番地六号所在の所轄神奈川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二二七〇万〇三二三円、課税土地譲渡利益金額が九二一万五〇〇〇円で、これに対する法人税額が一〇四一万七〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の各事業年度における正規の法人税額七〇一六万八八〇〇円と右申告税額との差額五九七五万一八〇〇円を免れた

第二  昭和五八年六月一日から同五九年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億〇四一二万四六六八円であったにもかかわらず、昭和五九年七月三〇日付前記神奈川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一〇八四万八四九一円で、これに対する法人税額が三七一万三一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四四一〇万一六〇〇円と右申告税額との差額四〇三八万八五〇〇円を免れた

第三  昭和五九年六月一日から同六〇年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億五八五五万四九七四円であったにもかかわらず、昭和六〇年七月三〇日前記神奈川税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が三五万二一八四円、課税土地譲渡利益金額が一一九五万円でこれに対する法人税額が二三九万円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六七六六万九八〇〇円と右申告税額との差額六五二七万九八〇〇円を免れた

第四  昭和六〇年六月一日から同六一年一月八日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が三億三八五二万七四七五円、課税土地譲渡利益金額が二億一二九九万八〇〇〇円であったにもかかわらず、同会社の法人税の納付期限である同六一年三月八日までに、前記税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における法人税額一億八八五二万五八〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  商業登記簿謄本一一通(甲2から11、弁1)

一  大蔵事務官作成の各調査書(合計二八通。甲16から43)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算説明資料

一  月出照代、李正子、相川順一(二通)、結城康子、蒲生正光、菊地久、田中槇祐、坂巻一元、張今順の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  被告人李仁秀の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  被告人李仁秀の検察官に対する各供述調書

一  被告人李仁秀の当公判廷における供述

同第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲12)

一  押収してある確定申告書一袋(昭和六三年押第一〇三号の1)

同第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲13)

一  押収してある確定申告一袋(前同号の2)

同第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲14)

一  押収してある確定申告書一袋(前同号の3)

同第四の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲15)

一  李英樹の大蔵事務官に対する質問てん末書

(量刑の理由)

本件は、不動産の賃貸業等を営む被告会社の代表者である被告人李が、被告会社の資金を備蓄すること等を目的として、不動産賃貸料収入、不動産売却収入、貸金利息収入等の一部を除外し、四期分合計三億五〇〇〇万円余りの法人税を逋脱した事犯であるところ、逋脱税額が高額であり、逋脱率もきわめて高率であるうえ、いわゆるペーパーカンパニーを次々に設立したり、家族や愛人の名義を利用したりして被告会社の取引を隠蔽し、会社の公表帳簿を一切作成しない等、当初から誠実に納税の義務を履行しようという意思が窺われない状況にあったのであって、被告会社及び被告人李の犯情は悪く、責任は重大であると言わなければならない。

このようにみてくると、この際、被告人李に対し実刑を科し、厳しく反省を求めることも考えられるところではあるが、本件において逋脱税額も多額である判示第四の事実については会社解散後の申告期についての被告人李の認識状況からして、逋脱額全額について純粋の無申告逋脱罪として処理することはいささか酷であること、被告会社は本件発覚後修正申告をして、各期の修正本税、重加算税その他の諸税を全額納付済みであること、被告人李は本件を反省し、会社の経理処理の改善努力をしていること、等の有利な諸事情を十分に考慮して、今回に限り、被告人李につきその刑の執行を猶予することとする。

(法令の適用)

一  罰条 被告会社

判示各所為につき法人税法一五九六条一項、一六四条一項

被告人李

判示各所為につき同法一五九条一項

一  刑種の選択 被告会社

判示各罪につき同法一五九条二項

被告人李

判示各罪につき懲役刑選択

一  併合罪の処理

被告会社

刑法四八条二項

被告人李

同法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をする。)

一  執行猶予 被告人李

同法二五条一項

(裁判官 森真樹)

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